大阪地方裁判所 平成10年(ワ)5424号 判決 1999年3月25日
原告
松下剛
被告
竹浦剛士
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、三五五五万六七一五円及びこれに対する平成五年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告が所有し、運転する自動車が橋の欄干に衝突し、同乗していた原告が負傷したなどとして、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 被告は、平成五年一月二一日午後一〇時〇分ころ、普通乗用自動車(大阪五〇た三〇九三、以下「被告車両」という。)を運転して、大阪府高槻市大字杉生小字千ケ谷三〇番地より西約一〇〇メートルの府道枚方亀岡線の路上(以下「本件道路」という。)を進行するにあたり、被告車両がスリップして、橋の欄干に衝突した。
2 本件事故当時、被告は、被告車両を所有していた。
3 原告は、本件事故当時、被告車両に同乗していた。
二 (争点)
1 原告の損害
(一) 原告の主張
原告は、本件事故により第三腰椎粉砕骨折、脊髄損傷、左上腕骨近位端粉砕骨折の傷害を負い、平成七年三月二五日、症状が固定し、脊椎の奇形、骨盤骨の奇形、左肩関節の運動障害、腰部から下肢にかけての疼痛、だるい重い感、左肩部、後腰部及び左腹部から背中にかけての長い手術痕を残したが、右のうち、脊椎の奇形は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)一一級、骨盤骨の奇形は等級表一二級、併合等級表一〇級に相当する後遺障害である。その他、原告の損害は、次の各費用目のとおりである。
(1) 入院雑費 二一万一九〇〇円(1,300×163)
(2) 入院付添費 一一万二五〇〇円(4,500×25)
(3) 装具 一〇万円
(4) 休業損害 二七八万〇六二八円
(給与減収一八四万四八六四円、賞与減収分九三万五七六四円)
(5) 逸失利益 二二四八万六一七四円
平成六年に得べかりし基本給、附加給、賞与の合計三五八万五〇〇三円で計算(3,585,003×0.27×23.2307)
(6) 入通院慰藉料 八〇〇万円
(入通院分三〇〇万円、後遺障害分五〇〇万円)
以上から既払分一一三万四四八七円を引いて、弁護士費用を加算する。
(二) 被告の主張
原告の主張のうち事実は知らない、その余は争う。付添費は必要ない。休業損害、逸失利益の基礎金額はおかしい。減収もない。
2 消滅時効
(一) 被告の主張
原告の症状は、平成七年三月二五日には固定しているところ、右から本件訴えが提起された平成一〇年六月一日までには三年が経過しており、原告の被告に対する損害賠償請求権は時効により消滅しているから、被告は右時効を援用する。
(二) 原告の主張
被告は次のとおり債務承認をした。
(1) 被告は、平成七年六月一四日、原告に損害賠償の一部として、五一五〇円を支払った。
(2) 被告代理人楠眞佐雄は、平成八年一一月二九日ころ、本件損害賠償債務額確定を求める調停を茨木簡易裁判所に申し立てた。
(3) 被告は、平成八年二月ころ、本件損害賠償債務を認める文書(甲一〇1、2)を原告に交付した。
(4) 被告は、原告に対し、損害賠償の一部として、別紙「原告への支払金一覧表」のとおり支払った。
(三) 被告の反論
(1) 被告は、平成七年六月一四日、原告に対し、五一五〇円を支払ったことは認めるが、損害賠償の一部の支払ではなく、後遺障害診断書代であり、客観的な治療状況を把握するための調査費用の一部に過ぎず、債務承認にはならない。
(2) 被告は、平成八年一一月二九日ころ、本件損害賠償債務額確定を求める調停を茨木簡易裁判所に申し立てたこと、平成八年二月ころ、文書(甲一〇1、2)を原告に交付したことは認めるが、それは話し合いを前提としての金額提示であり、損害の総額に争いがあり、その後も話し合いを重ねていたが、被告は、その都度、消滅時効の点を警告していたので、債務承認にはならない。別紙「原告への支払金一覧表」のとおりの支払についても同様である。
3 好意同乗減額、シートベルト非着用による減額
(一) 被告の主張
原告と被告とは友人同士で、誘い合い、専らドライブ目的であった。したがって、運行利益及び運行目的を共有しているので、好意同乗減額として二〇パーセント、また、シートベルト非着用が損害の拡大に寄与しているので、一〇パーセント、合計三〇パーセント減額すべきである。
(二) 原告の主張
無免許運転・飲酒運転承知など同乗者の過失と評価されるものがない以上、たとえ被告の主張するような事情があっても、好意同乗減額するのは相当でない。シートベルト非着用が、負傷を拡大した事実はない。
第三争点に対する判断
一 前記第二の一の事実、証拠(甲一ないし五、一五、一六1ないし6、一七1ないし8、一八1ないし4、乙一1ないし3、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右証拠中、右事実に反する部分は採用できない。
1 原告は、平成五年一月二一日、被告車両に同乗して、本件事故に遭い、第三腰椎粉砕骨折、脊髄損傷、左上腕骨近位端粉砕骨折の傷害を負った。
2 原告は、右傷害の治療のため、医療法人祐生会みどりヶ丘病院(以下「みどりヶ丘病院」という。)に、平成五年一月二一日から同年五月六日まで、入院し、同月七日から平成六年一月一〇日まで、通院し、同月一一日から平成六年二月一〇日まで、再入院し、同月一一日から平成六年九月四日まで再通院し、同月五日から同月三〇日まで、再々入院し、平成六年一〇月一日から平成七年三月二五日まで再々通院した。
3 原告は、平成七年三月二五日、症状が固定し、脊椎の奇形、骨盤骨の奇形、左肩関節の運動障害、腰部から下肢にかけての疼痛、だるい重い感、左肩部、後腰部及び左腹部から背中にかけての長い手術痕が残したが、右のうち、脊椎の奇形は等級表一一級、骨盤骨の奇形は等級表一二級、併合等級表一〇級に相当する後遺障害である。
4 原告は、平成七年六月六日、みどりヶ丘病院から、右後遺障害内容が記載された自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書をもらった。
5 被告は、平成七年六月一四日、原告に対し、五一五〇円を支払ったが、これは、右後遺障害診断書代であった。
6 原告は、右後遺障害診断書等を資料として提出して、平成七年六月二一日ころ、自動車保険料率算定会から、等級表一一級七号、一二級五号の併合一〇級の事前認定を受けた。
7 被告と任意保険の契約を締結していた東京海上火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)が原告側と本件事故に関して交渉した。東京海上の担当者は、中井(以下「中井」という。)で、原告側は、原告、原告の父であった。中井は、平成八年二月ころ、原告請求額、被告支払済額、過失割合、今回提示額(六〇〇万円)を記載した文書を原告に交付した。しかし、右交渉はまとまらなかった。また、原告は、中井から消滅時効について聞いていた。
8 そこで、被告代理人楠眞佐雄(以下「楠代理人」という。)は、平成八年一一月二九日、本件損害賠償債務額確定を求める調停を茨木簡易裁判所に申し立てたが、結局調停は、平成九年六月一〇日、不成立で終了した。この時、原告側は、原告の父が調停に出ていた。
9 原告の父は、紛争処理センターに申立てをしたが、まとまらず、取り下げた。
10 東京海上は、原告に対し、別紙「原告への支払金一覧表」の支払をした。
11 楠代理人は、平成一〇年三月一八日、原告の代理人に、話し合いを前提とした支払額を文書で提案していたが、消滅時効の援用権を抛棄するものではないことを警告していた。
二 以上から次のことがいえる。
本件事故による損害の消滅時効起算点は、遅くとも原告の症状が固定した平成七年三月二五日と解するのが相当である。そうすると、右から本件訴えが提起された平成一〇年六月一日(当裁判所に顕著である。)までには三年が経過している。
そこで、右時効期間に債務承認があったかを検討すると、被告は、平成七年六月一四日、五一五〇円を支払ったが、これは、右後遺障害診断書代であり、客観的な治療状況を把握するための調査費用の一部に過ぎず、債務承認にはならないといえる。また、被告(任意保険会社を通じて)は、支払金額の提示や支払をしていたり、調停の申立をしていたが、同時に、損害額などの争いを前提とする示談交渉も続けており、お互いの主張が合わず、示談ができなかったこと、中井が原告側に消滅時効の話をしていたのだから、中井は、消滅時効の抛棄をしないことを示していたと認められること、楠代理人になってからも、原告に消滅時効の警告をしていたことが認められる。このような事情のもとでの被告の支払金額の提示や支払い及び調停申立が、すくなくとも支払いをした以外の損害について、債務承認をしたことにはならないと解するのが相当であるから、消滅時効が完成したこととなる。
三 結論
以上から、原告の請求は、その余の点について、判断するまでもなく、理由がなく、失当であるから、これを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩崎敏郎)
原告への支払金一覧表